” 引きこもり ” と その対策

  • 引きこもりとは?      
  • 引きこもりとは、様々な要因の結果として、社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と関わらない形での外出をしている場合も含む)と平成25年厚生労働省が発表しました。引きこもりは病気ではなく、本人の状態を示すものです。年々その数は増え続け、現在では約26万世帯に引きこもりを続ける本人とその家族がいると報告がされています。現在は決して珍しい事でなく、市町村がひきこもり等児童福祉対策事業を本格的に立てるなどの方針がなされています。
  • 引きこもりには、積極的な精神科治療が必要な精神障害が含まれている可能性がある。
  • <思春期・青年期ひきこもりケースの背景にある精神障害の実態把握>
    ・実施方法:H19~H21年度に、全国5か所の精神保健福祉センターにひきこもりの相談に訪れた16歳~35歳の方(本人の来談)184人に
    精神科的診断を実施
    ・結果:診断の確定は約8割に当たる149人、情報不足等のための診断保留が35人
    第一群(統合失調症、気分障害等の薬物療法が中心となるもの)49人(32.9%)
    第二群(広汎性発達障害や精神遅滞等の生活・就労支援が中心となるもの)48人(32.2%)
    第三群(パーソナリティ障害や適応障害等の心理療法的アプローチが中心となるもの)51人(34.2%)
    分類不能(0.7%)
    ・第一群では、まずは精神障害であるため精神科治療が必要なケースです
    ・第二群では、すでに養育手帳や通級教室、特別支援学級など行政の指導が入っているケースか、あるいは該当するケースです。
    ・第三群が多くは典型的な引きこもりに該当するケースと考えます

    このように3人に1人は精神科治療が必要なケースが多いことを示しています。
  • ここでは精神障害、発達知的障害以外の引きこもりについて、その原因、対策について話を進めていきます。
  • 引きこもりの原因について
    ①本人を取り巻く環境の問題
    ・虐待や保護者の頻回の入れ替わりなどで愛着の問題を生じている→思春期で分離不安を生じやすい
    ・保護者の精神状態が不安定、条件付きの愛情、溺愛と支配、保護者との離別、両親の不仲などの不適切な養育環境
    ・いじめ問題に学校側が無関心。いじめ問題に保護者が無関心。または保護者に相談できない
    ・受験戦争やスポーツなどの英才教育による過度のストレス
    ・保護者が本人を溺愛しすぎて退行(赤ちゃん返り)を促してしまう
    ・友人関係でのトラブル発生で学校で孤立化
    ・社会からの回避行動
    ・その他etc

    ②本人自身の問題
    ・発達障害の要素(グレーゾーン)があると周囲との関わり方に問題が生じ、孤立傾向が強くなります
    ・引きこもることで自分の身の安全を確保しようとします
    ・社会や学校で楽しみを見つけることができず、欲が低下している
    ・プライドが高く、弱みを見せられない。
    ・何事もうまく切り抜けられる自信がない
    ・価値観が白黒はっきりしており、グレーゾーンがない。
    ・社会や学校に対する不安感、恐怖感

  • 引きこもりの増悪因子について(ここでは精神障害、発達知的障害がないとの前提で話を進めます)
     ①外界からの遮断(密室状況の促進)
    引きこもりの人々は密室化を好み、家族以外の第三者(親戚、教育関係者、病院の医師や看護師など・・・)の接触を一切拒否し、さらなる密室化を促進します。さらにひどくなると父親、兄弟、姉妹などとの交流も断絶し、唯一の接点である母親とも会話をぜず食事だけ受け取るような状況にもなりがちです。また両親が世間体の問題をかかえ、ひきこもりの本人を誰にも相談せず抱え込んで、なおいっそう引きこもりを促進する場合があります。引きこもりの本質的な問題は、究極な家庭内籠城です。つまり部屋から一切外に出なければ、自分の心が傷つくことはありません。この安全な環境を維持することに執着するのです。例えば引きこもって、インターネットで社会の人々と共通の話題でチャットしていても、チャット仲間と直接会う約束にはこぎ着けません。また過去の友人と直接会って友人と会話することはありませんし、友人もいないケースがほとんどです。これはチャットで嫌なことを言われてもパソコンの電源を落とせば、すぐにチャット仲間と縁を切れることが大きな安全性になっています。つまり直接会って、嫌なことを言われるより、パソコンの電源を落とす方が心の傷つきが少ない(安全性が高い)ことによるものです。このように心や身体の安全性を強く意識するようになると部屋の中にいる方が安全であるとの考えに至ります。
     ②退行現象
    ・14歳を過ぎた大人でも赤ちゃん返り(子ども返り)甘え退行のような現象が見られる事があります。成人しても、お母様を独占したがり四六時中お母様と一緒でないと気が済まない。お母様は一人で買い物に出かける事もできない。ベタベタと甘えてくる。夜はお母様が添い寝をしないと眠れない。頭をなでてほしい。抱っこしてほしい。膝枕をしてほしい。等もあります。また息子であれば性的な接触を求めてくることがあります
    ・このように退行現象を母親が拒絶すると、男子であれば家庭内暴力が、女子であれば摂食障害などの問題を引き起こします
     ③受動攻撃性(反抗期とは異なるものです)
    ・受動攻撃性とは命令されたり、助言したり、注意されたりすることに対して何らかの不満を持ち、直接言い返すのではなく別の形で反発することを指します。実際、思春期を迎えるとほとんどの子供は親や教師に反発し、受動攻撃性を行動をとることがありますが、これは成長の過程で起こることで通常は反抗期と言われます。また反抗期では直接反発することもありますが、思春期の一時期を過ぎればそのような行動はなりをひそめ、徐々に協調性、調和的な態度をとっていきます。しかし病的な受動攻撃性とは、自分がどんなに損をしても、言われたことに対して 直接は言い返さず別の形で反発する行動をこします。またこの反発はなるだけ反抗しているとは思われずに 相手にたいして、しつこくいやがる行為をやり続けます。
    ・反抗期では親や教師に反発しながらも、不登校になることは希でや引きこもることなく、社会や学校で適切な友人を作り、そこまで自分が損する行動はとりません。親や教師に反発しながらも学校やバイト生活ができているのであれば、反抗期と見ていいと思います。しかし病的な受動攻撃性では自分がどんなに損をしようとも、別の形でやり返すことをやめません。この行動が高まると引きこもりはよりいっそうエスカレートしてきます。
    ・引きこもりでよく見られる受動攻撃性は、食事を拒否し自分を痩せさせていく(飢餓状態に追い込む)、なにか注意されるたびに体調不良を原因に登校を拒否、激しい自傷行為、部屋の中の器物破損、親のお金を盗む、万引き、などがあります。
    ・では、このように受動攻撃性の根本的な問題点に注目してみます。相手に注意されたり、命令されたり、助言されたりして、その通りに動いた方が良い結果が得られるとわかっていても、自分のために行ってくれたとは解釈しません。むしろ”相手の思い通りに動くことは敗北を意味する”との考えが根底にあります。命令でも指示でも依頼でも 何か言われてその通りにしなくてはならないような状況になっていても、かなりの欲求不満を生じやすくなります。しかし直接、その不満や怒りが相手に表現されることはなく、相手にわからないような形式で表現されるのが特徴で、しかも、しつこいのが特徴です。なぜ直接怒りや不満を表現しないかと言うと、直接言ったら危険な状態に陥るからです。具体例では、親に直接反発すると殴られる、小遣いを減らされる、けなされるなどがあります。このような受動攻撃性が強くなる背景には、プライドの高さと自己肯定感の低さが本人に存在するのです
  • 引きこもりとその対策(ここでは精神障害、発達知的障害がないとの前提で話を進めます)
    ①密室状況の防止
    ・引きこもりの本質的な問題は、究極な家庭内籠城です。つまり部屋から一切外に出なければ、自分の心が傷つくことはありません。この安全な環境を維持することに執着するのです。そしてその環境を維持するために必要な人と関わりを持とうとします。家庭であれば母親だけとか・・・しかし、そのような関わる人々が少なければ少ないほど状況は良くなく、やがて母親に対して退行現象が出現してきます。この退行現象を促進してくるとやがては家庭内暴力に移行し、母親もうつ病などを発症して、ますます悪循環の環境が形成されてきます。この状態から私の経験上、まず自然に回復することはありません。ここでは引きこもっている本人が 母親とだけしか交流を持たないような状況になっていれば、まずは家族の全員と交流を持つように持っていかなければなりません。家族の全員と交流を持つことができなければ、親戚でもいとこでも、ケースワーカー、学校の担任、学校のカウンセラーなどとにかく、第三者を入れることが大事です
    ・密室状況の防止で、本人の受診はおおきな意義を持ちますが、ここで注意すべき問題点につきて申しますと、本人自ら受診をする意志を持たせることが非常に重要です。親が無理矢理連れてくると、受動攻撃性がクリニックへ向き、医師やカウンセラーの前で沈黙を保ち、心を開くことができなくなり何の解決にもなりません。密室化の防止には、まず関わっている人(おおく母親)がクリニックへ継続受診をすることから始まります。
    ・ここで最も重要な点は、第三者の介入を強制的にしたらいけません。それをすると受動攻撃性が高まり、ますます状態は悪化します。まずは母親が第三者(精神科医、学校のカウンセラー、学校の担任、)との関わりをもち、その印象を本人に説明して、本人が徐々に自らの意志で接点を持つように動機づけをつくるのが正解です。
    ②退行現象と家庭内暴力
    ・密室状況が進んでくると、やがて母親に対して退行現象(赤ちゃん返り)が出てきます。少なくとも、この傾向は良くありません。心理カウンセラーの人々には退行現象は回復の一途なので十分に甘えさせてくださいと話すこともあります。小学生は別にして14歳以上の思春期の子供がスキンシップを過剰に求めて来ることがありますが、これを許せばさらに退行と密室状態が促進します。なかでも思春期の男児が必要以上に性的スキンシップを母親に求めて来ることがありますが、断じて母親はこれを拒否しなければなりません。経験上、これを許して良い結果になったことがありません。
    ・退行現象が出現してくると、激しい要求が出現してきます。スキンシップ、小遣いの要求、食事の好き嫌い、好きなものの買い出しの要求など、しかし、要求を断ると家の中の器物を破損し、やがて暴力が出現します。これは家庭外(社会)では決して暴力行為がなく家庭内で限局しているので家庭内暴力となっています。
    家庭内暴力が慢性化した引きこもりの対処について?
    ・本人を強制的に入院させても、何の解決にもなりません。むしろ本人の激しい反感を買い、引きこもりと暴力はなおエスカレートします。
    ・暴力を受けた場合に避難するのは正解ですが、問題はその時期です。避難する時期を間違えると暴力はよりいっそう激しくなります
    ・警察介入は最終手段としてください。警察の介入が良い方向へ向くか、悪い方向へ向くかは状況によってかわります。また家族内の問題に関しては事件性がない限り不介入です。
    ・慢性化した家庭内暴力をなくす方法は親から子への謝罪、子から親への謝罪、暴力を振るわれた親への気持ちを理解する、お互いの存在価値を認める(感謝の気持ちを忘れない)などがなければなりません。これはそれぞれ順番と時期、やり方があります。ここでは詳しくは述べません。なぜなら、いろんな家庭観環境がありケースバイケースで違うからです
    ③受動攻撃性の問題について
    受動攻撃性が高まると、よりいっそう反感や憎しみが増して、密室状況が促進し退行現象が強まります。引きこもりが長期化して本人に受動攻撃性が高まりつつある環境では 親自身にも受動攻撃性があるかどうか判断しなければなりません。つまり親自身も子供目線で仕返しをしている場合は親が自分にも受動攻撃性がある自覚がなければなりません。あるいは仕返しとは感じていないけど子供に対して感情的になっている場合は問題です。さらに子供が受動攻撃性の行動(仕返し)をしているときに無視したり回避したり、気付かないふりをするとよりいっそう受動攻撃は激しくなります。このように受動攻撃性が強まる背景に親の言葉使いが良くない点が上げられます。具体的に良くない親の言動を紹介します
    1)子供の意見に対して否定的に話す
    子供が目標をもって決めたことについて、応援する態度ではなく否定的な態度をすることです。
    ” どうせ、あなたには無理でしょう ”  ” また挫折して落ち込むでしょう ” ” そんなことをしても意味ないし無駄だから・・ ”
      などの言動はつつしみましょう。
    2)上から目線の話し方
    上から見下すような権威的な話し方や断定的な口調です。いかにも社会常識を前提におき、理屈っぽく話すの良くありません。とりわけ父親に多い態度です。例えば ” それは○○に決まっている ” ” 世の中では○○は当たり前だ ” ” おまえの身分は中卒でどこにも就職先はない ”
    などのいいかたです。
    3)皮肉やあてこすりの言い方
    ねちねちと本人の言い分に対して批判や皮肉、巧妙な比喩表現をつかった言い回しをすることです。特に母親に多く本人に自責感や意欲を消失させます。具体例として、” ほーら、お母さんに言った通りでしょう ” ” こんな感じになったのは あなたが悪いじゃないの ” ”あなたのために言っているの、だから言ったの ” ” 怠けているばかりでどうしようもないのだから ”
    このように嫌みや皮肉、あてこすりなどは良くありません。素直で率直な表現が好まれます。
    4)親の思い通りにならないと激しく責める言動
    ” ○○しなさいと言ったでしょ、なぜできないの ” ” ○○までに○○を終わらせないといけないでしょう ”
    これは母親によく見られる言動で子供の生活管理を厳しくしてしまう傾向は良くありません。つまり常識のレベルをこえて、思い通りにならないと気が済まないとか感情的になるのは良くありません。
  • 親の受診について、よくある問題
    ・ここで親が引きこもりの相談で、来院されるケースで最も問題となっていることは、親自身が全く努力をせず本人を病院に丸投げをする態度がたびたび見受けられます。これでは何の解決にもなりません。
    ・親自身もプライドが高く、引きこもりの原因を精神的な病気や発達障害の責任にしてしまって、その治療をすれば良いとの考えから抜け出せていないのも見直す必要があります。また病院やクリニックも精神疾患がないにも関わらず、薬物加療のみを漫然と継続し、家族関係の見直しに入っていないこともよくあります。また自閉スペクトラムやADHDなどの障害といえないほどのグレーゾーンであれば、よりいっそう受動攻撃性は増し引きこもりは悪化します。
    ・親自身、プライドたかく、養育態度を見直そうとしない。あるいは助言やアドバイスを受け入れられない。アドバイスを受け入れたふりをして、実行しない。(これは親自身にも受動攻撃性があるとわかっていますが、認めたくない(否認)が介入を困難にしています。
    ・親自身が精神不安定でうつ病になってしまっているが、治療を拒み続けている状態。
    ・夫婦関係が悪く、子供が巻き込まれてしまっている状態では、夫婦関係の修復が先かどうかを判断する必要があります。
    ・引きこもりと同時に統合失調症などの精神病を発病してしまっているが、薬物加療が必要であるにも関わらず拒否している。この場合、親に疾患教育が必要であると考えます。
    ・親自身に受動攻撃性と自己愛が強い人格であると治療はよりいっそう困難になります。
    ・親のいずれかにアルコール依存、ギャンブル依存、DV問題、多重嗜癖問題があれば、その問題が子供に対する影響を考えなければなりません。
    ・本人がやっと受診できるようになっても、本人受診の際に主治医と何を話していたが、あとで本人にしつこく問い詰めたりする行動もよくありません
  • 親が変われば子も変わる
    ・長年、引きこもりの家族関係を見てきましたが、根底には共依存家族で相手に対して依存的、支配的です。また家族間で駆け引きが多く、お互いに自由がないのが特徴です。。また家族の間で謝罪、感謝、賛美、共感、受容がなく、無視、冷酷、支配、責任のなすり合い、勝ち負けにこだわる、が見受けられます。
    また、親自身も精神的にダメージを背負っていることが多く、先に治療が必要な場合が少なくないようです。まずは親が変わるとの自覚が最も重要で、親が自分自身を洞察し、振り返りをすることで、家族関係に新しい風が吹き込むようになれば、子供の心も変わっていきます
    ・長期化すればするほど、引きこもりの救出は困難になります。
    ・引きこもりは自然になおっていくかどうかについては 残念ながら自然軽快は非常に希です。親が病院や社会資源を頼らずに、親自身の欠点を理解し反省したケースでは改善例があります。